大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)1423号 判決

被告人 渡辺欣哉

〔抄 録〕

一、記録に徴すると、本件公訴事実は、被告人の単独犯行に係る窃盗未遂の事実を訴因とし、原審第一回公判期日(昭和三十八年四月二十二日)において、被告人が右訴因について有罪である旨を陳述したことにより、原審は本件を簡易公判手続によつて審判する旨適法に決定し、証拠調を行い、被告人の供述を聞いたこと、同第二回公判期日(同年五月十日)において、検察官は、右単独犯の訴因を、被告人は高橋昭男外三名と共謀の上本件犯行を為した旨の共同正犯の訴因に変更したい旨請求し、弁護人は、右変更に異議がない旨陳述し、裁判官は、右変更を許可する旨決定し、訴因変更後の被告事件についての被告人及び弁護人の陳述、被告人の供述、検察官及び弁護人の弁論、被告人の最終陳述を聞いて結審したこと、同第三回公判期日(同年同月十三日)において、裁判官は、先に終結した弁論を再開する旨決定した上第一回公判期日においてなした、本件を簡易公判手続によつて審判する旨の決定を取り消し、公判手続を更新し、あらためて通常の手続により証拠調を行い、検察官及び弁護人の弁論、被告人の最終陳述を聞いて結審し、同第四回公判期日(同年同月十七日)において、変更後の訴因どおり、被告人は高橋昭男外三名と共謀して本件犯行を為した旨の事実を認定した原判決を宣告したこと、をそれぞれ認めることができる。

そこで先ず職権を以て調査するに、本件の如く、事件を簡易公判手続によつて審理する過程において訴因の変更が許されるか否かについては、絶対にこれを許さない趣旨であると解すべき法令上の根拠も存しないから、若し被告人が訴因変更後の被告事件についての陳述において、変更後の訴因について有罪である旨を陳述したときは、簡易公判手続により審判する旨の決定を取り消すことなく、そのまま右手続による審理を続行して差支えないものと解するが、若し被告人が変更後の訴因について有罪である旨を陳述しなかつたときは、その訴因については簡易公判手続によつて審判をすることを得ず、その旨の決定を取り消し、通常の手続により審判をしなければならないところ(刑事訴訟法第二百九十一条の二及び三)、

二、本件被告人は、原審第二回公判期日において、訴因変更後の被告事件についての陳述として、共謀の点を否認し、被告人の単独犯行である旨述べ、本件共同正犯の訴因については有罪である旨を陳述しなかつたことは同期日の公判調書の記載に徴し明白であるのに拘らず、原審は同期日において、先に第一回公判期日になした本件を簡易公判手続により審判する旨の決定を取り消すことなく、そのまま右手続による審理を続行して弁論を終結し、第三回公判期日を判決宣告期日と指定告知していることが記録上明白であるから、この限りにおいては、原審の右訴訟手続には法令の違反があるといわなければならない。

しかし、前叙の如く、原審裁判官は、右第三回公判期日において、弁論を再開し、前記簡易公判手続の決定を取り消し、公判手続を更新し、あらためて通常の手続により、第一回公判期日において取り調べられた証拠書類の全部について適法に証拠調を行い、訴訟当事者の弁論及び最終陳述を聞いた上弁論を終結し、第四回公判期日において判決を宣告しているのであるから、これにより第二回公判期日における前記訴訟手続上の瑕疵は治癒されたものということができる。

次に所論の点について考察するに、本件に、おける変更前の訴因と変更後の訴因とは、前者は被告人の単独犯、後者は被告人と高橋昭男外三名との共同正犯を各その内容とするものであつて、各犯罪事実の法律的構成を異にするに止まり、犯罪の日時、場所、手段、被害者等の事実関係においては具体的に全く同一であるから、本件訴因変更手続によつて公訴事実の同一性が害せられたことにはならない。

しかして、記録に徴して明らかな如く、(1)訴因変更前の第一回公判期日において取り調べられた証拠書類中司法警察員小林成人作成の現行犯人逮捕手続書、司法警察員高瀬富夫作成の「都電内における集団すり犯人の被疑者写真について」と題する書面及び同添付の写真、小林成人、森正雄、野原義雄、永坂太三郎の検察官に対する各供述調書中には、本件が被告人の単独犯行ではなくて、被告人と高橋昭男外三名との共同正犯の犯行であることを推知させるに足りる記載があるから、被告人としては、第一回公判期日の当時すでに、かかる疑を受けていることを充分に知り得たものというべく、(2)同期日において被告人は、右現行犯人逮捕手続書に基づく裁判官の質問に対し、他の四人と共謀したことはなく、自分一人でやつたことである旨供述して、一応の防禦を為し、(3)同期日(昭和三十八年四月二十二日)は続行となり、指定告知された第二回公判期日(同年五月十日)との間には、防禦の準備をするに必ずしも不足とはいえない十八日間の余裕が置かれていたのにかかわらず、右第二回公判期日において、被告人及び弁護人は、敢えて公判手続の停止(刑事訴訟法第三百十二条第四項参照)を請求することなく、検察官の訴因変更の請求に対し異議を述べず、訴因変更許可決定後、被告事件についての陳述として、被告人は、共謀の点を否認し、被告人の単独犯行である旨述べ、なお弁護人の質問に対し、高橋昭男を除く他の三名は知らない旨供述して、変更後の訴因に対する防禦をなし、(4)第三回公判期日においては、被告人側は、検察官の取調請求にかかる前顕各書面をすべて証拠とすることに同意し、被告人の単独犯行を立証する手段を講じなかつたことを認め得るのであるから、本件訴因変更手続によつて被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがあつたものとも認められない。

また、本件において変更後の訴因によれば、被告人は、高橋昭男外三名と共謀の上昭和三十八年三月十九日午後二時二十分頃東京都千代田区大手町停留所より丸の内一丁目停留所に向け進行中の都電内において、乗客永坂太三郎の着用する背広上衣第一釦を右手指三本を使つて外し、内ポケツト内から同人所有の金品をすり取り窃取しようとしたが、警察官に逮捕されたためその目的を遂げなかつたものであるというにあり、他人と共謀にかかる窃盗(掏摸)未遂の犯罪事実を、他の訴因を構成すべき事実と明確に区別できる程度に、共犯者の氏名、人数、犯行の日時、場所、方法、態様を以て特定しているものと認められるのみならず、その実行々為者が被告人一名であることは変更前の訴因と変りなく且つ被告人の認めて争わないところであるから、被告人と高橋昭男外三名との共謀の場所及び方法の如き個々の事項は本件の訴因を明示するに当り必ずしもこれを明確にすることを要せず、その具体的な表現がなされていないからといつて裁判官に事件につき予断偏見を生ぜしめる虞れがあつたものともいえない。

従つて、原審が本件訴因変更の請求を許可したことは正当であるというべく、原審の訴訟手続には違法の点はない。

(坂間 栗田 有路)

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